特別おまけ企画

― ベルリン国立絵画館 超個人的鑑賞記 ―


ベルリン国立絵画館で特に気に入った作品をいくつか紹介したいと思います。


◆◆ ボッティチェッリ(サンドロ・ディ・マリアーノ・フィリッピ)(BOTTICELLI  1445-1510) ◆◆

 花の都フィレンツェというと私の脳裏にはサンタ・マリア・デル・フィオーレの美しい聖堂と、ウフィッツィ美術館にある「プリマヴェーラ」が浮かびます。私にとってフィレンツェを象徴するのは、ダ・ヴィンチでも、ミケランジェロでも、ラファエッロでもなく、実はボッティチェッリなのです。ガラスの被いができる前に「プリマヴェーラ」を観ることができたのは何と幸せなことだったのでしょう!私のイタリア・ルネサンスへの憧憬はそこから始まりました。
 ベルリンで久しぶりに心の底から湧きあがるような感動と歓喜を覚えたのがボッティチェッリの作品だったというのも私には必然のように思われます。このボッティチェッリの「玉座の聖母子と洗礼者聖ヨハネ、福音書記者聖ヨハネ」はサント・スピリト聖堂のバルディ家礼拝堂の祭壇画だと言われています。

「玉座の聖母子と洗礼者聖ヨハネ、福音書記者聖ヨハネ」
1484年
ポプラ 185×180cm

 この大きな祭壇画の前に立つと圧倒的な緑と花々の洪水に飲み込まれてしまいそうな幻惑を感じます。緑濃き棕櫚の葉で編み込まれたニッチを背景に白百合・薔薇・オリーヴに縁取られた聖母マリアがイエスに乳を与えようとしています。洗礼者ヨハネと福音書記者ヨハネがイエスの未来を語るが如く指し示します。この世の罪を全て引き受けるであろううイエス。しかし、この祭壇画はそんな宗教的な意味合いを越えています。画面を覆い尽くす緑なす自然の美しさ。可憐な花々の咲き乱れる野辺に聖母子を称える聖なる木々の緑。薔薇の美しさも白百合の純潔さも、全てが渾然一体となって画面を馥郁と薫らせ、観る者さえその濃厚で緻密な世界に惹き込んでしまうのです。聖母子を称える歓喜の渦に巻き込まれながら、もしかしたらこれは一種の官能的な世界かもしれないと思いました。祭壇画の丁度下にある磔刑図は、そんな罪深い自分の許しを乞うための贖罪のためにあるのでは?と勘ぐってしまいます。ボッティチェッリの世界はキリスト教を越えた美を、芸術を称える世界なのではないかと思えるのです。私はこの祭壇画の前で至福のあまり深い溜息をついてしまいました。

 ◆◆ ヤン・フェルメール・ファン・デルフト(Jan Vermeer van Delft 1632-1675) ◆◆

 フェルメールが展示されている小部屋には誰もおらず、幸運なことに全くの一人占めでした。展示空間に絵の持つ静謐さがそのまま伝わってくるかのようでした。しかし、絵は2枚ともガラスに被われており、直に筆使いを感じることができず残念でした。まぁ、希少な作品でもあるし仕方がないのかな、というあきらめも...。
 フェルメールは私にとって殆ど今回が初体験と言っても良いものでした。本当は以前何枚か観ているはずなのに記憶に残っていないのです。NYのメト、フリック・コレクション、ロンドンのナショナル・ギャラリー、ウィーンの美術史美術館...。当時の私は美術知識殆ど皆無でしたし、自分の興味のある画家の作品ばかりに目を奪われていました。フェルメールの画風は、ドラマチックな大作と違い、深く絵の中に入り込んでこそ、その魅力がわかるものだと思います。
 そして、今の私は CARAVAGGIOの影響を受けた画家としての認識をますます深めているところです。

   外出しようとしているのでしょうか?着飾った女性が真珠の首飾りを持って鏡に映しています。窓からの光がいとも柔らかく室内に注し込んでいます。黄色いカーテンに、白い壁に、影さえも柔らかく映っています。そして、なによりも女性の毛皮付きの黄色い上着(絹です)に光はデリケートに輝き、みごとな質感を浮き立たせているのです!
 ここでのフェルメールはまさにCARAVAGGIOの光と闇の世界を髣髴せます。窓から注しこみ、白い壁に柔らかく反射する光と、テーブルの下部に落ちる影・闇とのコントラストが実に印象的なのです。椅子の鋲の輝きや陶器の光、勿論女性の身につけたイヤリングに、そう、真珠の首飾りの細やかな光のアクセントがこの闇を際立たせているように感じたのでした。
 ここで画家の描こうとした寓意について、私はあまり興味がありません。もしかして、首飾りの象徴する虚飾についてかもしれません。しかし、それよりも、この室内に漂う静寂で凝固したような時や、ときめきを見せながら鏡に見入る女性の横顔に惹かれるものを覚えます。そして、なによりも、その柔らかな黄色の光の世界に...。
「真珠の首飾り」
1660-65年頃
カンヴァスに油彩 55×45cm
   


「ワインのグラス」
1660年頃
カンヴァスに油彩 66.3×76.5cm
   「ワインのグラス」は、この男女二人の関係などより、私には窓の美しさの方がよっぽど魅力でした。窓模様の淡い色彩の織り成す微妙な光りの透け方、開いた窓からこぼれ注ぐ陽光の柔らかさ。どうやら私は光を追っていました。フェルメールはCARAVAGGIOの光と闇を受け継いでいます。
 窓からの光は午後の陽射しとなって室内に注いでいます。ちなみに、帽子もとらないこの男性は昼間から女性を酔わせるつもり?なぁんて詮索するのも野暮です。なにやら秘め事めいた静かで親密な空間を観て楽しむだけです。
 それにしても、フェルメールの構図の緻密さと、配置された家具、楽器や布地の質感に心底参りますねぇ。緑とテラコッタ色のタイルの質感なんて凄いですよ。こんなに描き込んで良いのだろうか?なんて思ってしまいました。更に付け加えると、女性のかぶる帽子の白も、男性の袖口の白も、なんだかCARAVAGGIOの白の質感を想起させるものがありました。
 なにやら、フェルメールはクセになりそうな、そんな予感がしました(笑)。


また作品を追加予定です(^^;

おまけ画像


2002/04/07 UP

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